「それからムーサーが年期を満了し、家族と一緒に旅している時トール山の傍に、一点の火を認めた。かれは家族に言った。『あそこからあなたがたの消息を持って来よう。または火把を持ち返って、あなたがたを暖めよう。』そこにやってくると、谷間の右側の、祝福された地にある一本の木から声がした。『おおムーサーよ、本当にわれは万有の主、アッラーであるぞ。』」(『聖クルアーン・物語章29-30』)
シナイ山の麓にドクトール・アフメドの植物園はある。彼は伝統的な植物による治癒法を研究する医者であり、遊牧民である。ほとんど自生できないような過酷な環境で育つ植物や木々は、それ自体が異様な力を発出する存在として現れ、植物の持つ「薬」としての癒しの力というよりむしろ「毒」としての力の過剰を印象付ける。町から引かれた数本の水のパイプによってコントロールされた植物たちは、砂漠の谷間の圧倒的な静けさをその表面に反響させているが、その内部では人間的な支配から逃れ去る野生を湧き立たせている。これは遊牧と定住のあいだのランドスケープであり、自然と人工の拮抗する諸力のあいだに生起する<植物の力能>をめぐる観察である。
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