日本有数の豪雪地帯に聳える八海山は八つの海という名を持つ霊山であり、かつてから修験道の修行の場となってきた。修験道とは<ヤマーカミ>の胎内へと深く没入していくことで知覚を変容させていく身体と魂の修養法に他ならない。冬の北陸は日本海という「ウミ」が結晶化して降り注ぐ場であり、雪に深く覆われたこのヤマの懐に入っていくことは、そのまま「ウミ」への潜行となる。「ウミ」の内部では、吹き渡る雪と風によってその白い表面が、波のように刻々とカタチを変えながら流動している。雪庇という自然の形象を通じて知覚するのは、風がヤマを生成してゆく力であり、みえない海流の力学が残していく「白い痕跡」である。